「新型栄養失調」とは
定義
新型栄養失調とは、エネルギーは十分に——場合によっては過剰に——摂れているのに、 体をつくり調子を整えるための栄養素が不足している状態を指す言葉です。 食べる量そのものが足りない従来型の栄養失調と区別するために使われます。
「隠れ栄養失調」「隠れ飢餓(hidden hunger)」と呼ばれることもあります。 いずれの言葉も、エネルギー摂取量だけでは栄養状態を判断できないという同じ論点を指しています。 体重や見た目は標準的、あるいは肥満の範囲にありながら、特定の栄養素が満たされていないことがある—— これがこの言葉の要点です。
従来型の栄養失調との違い
| 従来型の栄養失調 | 新型栄養失調(通称) | |
|---|---|---|
| エネルギー(カロリー) | 不足している | 足りている/過剰なこともある |
| 不足しやすいもの | 食事の総量そのもの | たんぱく質・ビタミン・ミネラルなど |
| 体格からの気づきやすさ | やせとして現れやすい | 体重・見た目では気づきにくい |
| 背景 | 食料の絶対的な不足 | 食べ方・選び方の偏り |
つまり、こういうことです——
「栄養失調」と聞いて思い浮かぶのは、食べる物がなくてやせ細っている姿だと思います。 ここで言っているのはその逆で、しっかり食べている人にも起こりうるという話です。 体格が標準の範囲にある人でも、そうでない人でも起こりえます。 体重や見た目からは分からない、というのがこの言葉の要点です。
なぜ「食べているのに足りない」が起きるのか
仕組みそのものは単純です。エネルギー源になる栄養素と、体をつくる栄養素が別物だからです。
- 糖質・脂質は、ごはん・パン・麺・揚げ物・菓子などから比較的簡単に、 むしろ過剰になりやすい形で摂れます。
- 一方でたんぱく質・ビタミン・ミネラル・食物繊維は、 主菜(肉・魚・卵・大豆)や野菜・海藻などを意識して選ばないと不足しやすい栄養素です。
つまりカロリーは「放っておいても満たされやすい」のに対し、体づくりに必要な栄養素は「選んで摂る」必要があります。 このカロリーと栄養素のギャップが、「食べているのに足りない」の正体です。 仕組みのより詳しい解説は、関連記事 「カロリーは足りているのに栄養不足——その状態の呼び名と仕組み」 で扱っています。
つまり、こういうことです——
車でいえば、ガソリンは満タンなのに、タイヤの空気が抜けているような状態です。 ごはん・パン・麺・揚げ物は意識しなくても勝手に入ってきますが、 たんぱく質や野菜は自分で選ばないと入ってきません。ここに差が出ます。
公的データでみる背景
厚生労働省の令和5年「国民健康・栄養調査」(令和6年11月25日公表)では、 次のような結果が報告されています。
- 20歳以上の肥満者(BMI≧25 kg/m²)の割合は、男性で31.5%。
- 20歳以上の野菜摂取量の平均値は256.0 gであり、 男性では直近10年間で有意に減少している。
- 20歳以上の歩数の平均値は男性6,628歩・女性5,659歩で、 こちらも直近10年間で男女とも有意に減少している。
体格の面ではエネルギーが不足しているとは言いにくい一方で、 野菜の摂取量は減少傾向にある——この2つが同じ調査のなかに並んで存在していることが、 「新型栄養失調」という言葉が使われる背景を端的に表しています。 エネルギーの過不足と、栄養素の過不足は、別々に見る必要があるということです。
つまり、こういうことです——
国の調査には、「太っている人は少なくない」という結果と 「野菜は減っている」という結果が、同じ一つの調査の中に並んで載っています。 食べる量が足りないわけではないのに、中身は削れている——この2つが同時に起きていることが、 「新型栄養失調」という言葉が使われる背景です。 (いずれも厚生労働省 令和5年「国民健康・栄養調査」の結果で、個人の状態を示すものではありません)
「足りているか」を測る公的なものさし——食事摂取基準
栄養素をどれだけ摂ることが望ましいかは、健康増進法にもとづく厚生労働省告示 「食事による栄養摂取量の基準」——一般に「日本人の食事摂取基準」と呼ばれるもの—— に定められています。現行の基準は2025年版で、 令和6年11月22日厚生労働省告示第339号による改正により令和7年4月1日から適用されています。
そのうち、たんぱく質については次のように定められています。
| 年齢 | 推奨量 男性(g/日) | 推奨量 女性(g/日) | 目標量(%エネルギー) |
|---|---|---|---|
| 18〜29歳 | 65 | 50 | 13〜20 |
| 30〜49歳 | 65 | 50 | 13〜20 |
| 50〜64歳 | 65 | 50 | 14〜20 |
| 65〜74歳 | 60 | 50 | 15〜20 |
| 75歳以上 | 60 | 50 | 15〜20 |
この表には、見落とされやすい特徴があります。 年齢が上がると推奨量(g/日)はむしろ下がる(男性65g→60g)のに、 目標量(%エネルギー)の下限は逆に上がる(13%→14%→15%)という点です。
これは矛盾ではありません。加齢とともに食事の総量そのものが減りやすいため、 グラム数として同程度のたんぱく質を確保しようとすれば、 食事全体に占める割合を高める必要がある——という関係を表しています。 「食べる量が減った分だけ、中身の密度が問われる」と言い換えることもできます。
つまり、こういうことです——
年をとると食べる総量そのものが減ります。同じだけのたんぱく質をとろうとすれば、 少なくなった食事の中で占める割合を上げるしかありません。 お弁当箱が小さくなったぶん、おかずの詰め方が問われるようなものです。 (これは国が示した目安の話で、一人ひとりの必要量は年齢・体格・活動量・体調によって変わります)
用語としての位置づけ——診断名ではない
「新型栄養失調」は、報道や啓発の場を通じて広まった通称です。 公的な統計や基準で用いられる正式な区分名ではありません。 上に挙げた厚生労働省の食事摂取基準も、エネルギーと各栄養素について摂取量の基準値を定めるものであって、 「新型栄養失調」という状態を定義したり分類したりするものではありません。
したがってこの言葉は、自分や他人の状態を判定するためのラベルとして使うものではありません。 「エネルギーだけでは栄養状態は測れない」という視点を持つための言葉、 食習慣を振り返るきっかけとしての言葉として理解するのが適切です。 体調に不安がある場合の判断は、後述のとおり専門家に委ねてください。
つまり、こういうことです——
これは病院でつく診断名ではありません。検査で「あなたは新型栄養失調です」と言われることはありません。 ですので、自分や他人に貼るラベルとして使う言葉ではありません。 「食べた量だけでは栄養は測れない」という見方を持つための言葉だと考えてください。 体調に不安がある場合は、医師・管理栄養士等の専門家にご相談ください。
気づくための観点
新型栄養失調が話題になるのは、体重や見た目では気づきにくいためです。 カロリーは足りている(あるいは余っている)ので、 「食べている=栄養も足りている」と考えてしまいやすいという構造があります。
出発点は、「量」ではなく「中身」に目を向けることです。
- 毎食にたんぱく質源(肉・魚・卵・大豆製品)が入っているか
- 野菜・海藻・きのこなどが彩りとして揃っているか
- 炭水化物だけで完結した食事が続いていないか
- 欠食や、菓子・清涼飲料での「なんとなくの間食」が習慣になっていないか
いずれも誰にでも起こりうる、ごくありふれた食習慣です。 特別に食生活が乱れている人だけの話ではない、という点がこの言葉の要点でもあります。
この観点をより細かく分けた項目と、項目ごとの次の一手は、関連記事 「新型栄養失調のチェックリスト——症状で判定せず、食習慣を振り返る12項目」 にまとめています。なお合計点で判定するチェックは行いません—— 診断名ではない以上、該当・非該当を分ける線が存在しないためです。
「症状」の側から調べようとしている方は、関連記事 「新型栄養失調の症状——一覧では特定できない理由と、国の基準が実際に見ているもの」 をご覧ください。厚生労働省告示「食事による栄養摂取量の基準」の原文にあたり、 指標の定義が五つとも「一日当たりの摂取量」で書かれていること—— すなわち国の基準が症状を一つも使っていないことを確認しています。
つまり、こういうことです——
体重計では気づけません。 カロリーは足りている(むしろ余っている)ので、 数字の上では何も起きていないように見えるからです。 見るところは「どれだけ食べたか」ではなく「何が入っていたか」です。 毎食におかず(肉・魚・卵・大豆)が入っているか、色のあるものが乗っているか——まずはそこからです。
データでみる、実際の食べ方
実際の食事記録を集計すると、食べ方は一様ではないことが見えてきます。 VITLの利用者の食事記録1,262人日分を匿名集計した記事 「食べ方は二極化していた——食事記録1,262日分で見たPFCバランスの実態」 では、糖質を抑える食べ方の群と一般的なバランスの群に分かれた一方で、 たんぱく質だけは両群に共通した論点だったことを報告しています。
出典
- 厚生労働省「食事による栄養摂取量の基準」(日本人の食事摂取基準・平成27年厚生労働省告示第199号、令和6年厚生労働省告示第339号により改正)別表第二 たんぱく質の食事摂取基準 — 法令等データベース
- 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果」(令和6年11月25日公表) — 結果公表ページ
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 — 報告書ページ
このページについて
本ページは、「専属AIトレーナーを雇う」という発想のAI食事管理サービス「VITL(バイタル)」を運営する ゼロジム369株式会社(福岡)が編集しています。 VITLは、記録するだけの一般的な食事管理アプリとは設計が異なり、 食事の写真やテキストから記録を作成して栄養バランスを見える化し、 次の食事の選び方まで提案することを目指したサービスです。 その設計の背景には、本ページで述べた新型栄養失調への問題意識があります。 詳しくはVITL公式サイト、 および「VITL(バイタル)とは」をご覧ください。
なお「VITL」という名称のサービス・事業者は世界に複数存在します。 本サービスVITL(バイタル・vitl.jp・運営: ゼロジム369株式会社)は、 同名の英国のサプリメント通販ブランドVitl、および 金融庁が警告書を発出した無登録業者の一覧 に掲載されている「VITL Financial Trading Limited」とは、資本・運営とも一切関係ありません。 「VITL」はゼロジム369株式会社の登録商標です(商標登録第7053784号)。
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。 特定の疾病の予防・改善を保証するものでもありません。 体調に不安がある場合は、医師・管理栄養士等の専門家にご相談ください。